家に帰って真っ先にすることは、有志を探すことだった。
勢いこんで有志の部屋に入ったはいいけどここにはいなくて、一階に戻ると、一人でぼんやりテレビを観ているのを見つけた。
「有志」
隣に腰かけると、有志はにこっと笑った。
「おかえり。どこ行ってたの?」
「百合人くんのお母さんのお見舞い。
ねぇ、有志、わたしママに会いに行くことにした。」
質問の答えから間をおかずに言うと、有志ははじめきょとんとした顔をして、すぐにふわりと微笑んだ。
「そっか、いってらっしゃい。」
「有志も一緒に行こうよ」
一番言いたかったことをつげると、微笑みがすぅっと引いていった。
「僕は……行かないよ」
「なんで?有志だってホントはママに会いたいし、話したりしたいくせに」
うつむく有志に、わたしはたたみかけるように言った。
「もしかしたら最後かもしれないんだよ?ママの乗った飛行機が事故にあうかもしれないし、有志が車にひかれちゃうかもしれない。会ってなかったら、後悔するに決まってる。」
さっき聞いた百合人くんの話は正直とても怖かった。
わたしはもしかしたら、出会う前に、真昼を失っていたかもしれないのだ。
紙一重で運命が変わってしまう恐ろしさ。
有志に後悔なんかして欲しくない。
「……そりゃ、会いたいよ」
有志のかすれた声に、わたしははっとした。
有志が泣いてる。
生まれたときからの本能みたいなもんで、わたしは気がついたらぽろぽろ涙を零す有志をぎゅっと抱きしめていた。
「僕も会いたいけど、会えない。だってパパを守るって、ママより大事にするんだって決めたから、無理なんだ。」
わたしは悲しくなった。
それと同時に少し誇らしくもある。
有志の意思を曲げることができるやつはそうそういないんだと、あらためて再確認していた。
「ごめん、青、僕のぶんもママに会ってきて。ホントは大好きだよって、伝えて」
うん、とうなづいて、腕に力を込めた。
一人で会いに行く。

