「……………海外?ってどこの国?」


「アメリカ。LAに行くの。」


どう反応していいか分からなかった。


はぁと息を吐くと、白いもやもやが暗い中でもぼんやり見える。


頭がショートしているわたしに、ママは困ったような笑みを浮かべた。


おもむろに、コートのポケットの中から小さな紙を取り出す。


「ここに、今泊まってるホテルの住所が書いてあるわ。良かったら……会いに来て。一度貴方たちとゆっくり話したいの。一月中は日本にいるから。」


震える指で受け取ったメモに目を通し、ママを見上げた。


大好きだった、優しそうな目元。


微笑みの似合う小さな唇。


わたしはしばらく何も言わずにじっとママの顔を見つめていた。


わたしの視線に耐えきれなくなったのか、ふっとママが目をそらした。


「じゃあ、ママはもう行くね。有志の言うとおり、青が風邪引いたらいけないもの。いきなりごめんね」


そう言い残して、わたしに背を向けると、足早に去っていった。


寒さで身体が震える。


でもどうしても、ママの後ろ姿が見えなくなるまで、家の中には入れなかった。