ママはおずおずとわたしたちに微笑みかけ、ゆっくりと近づいてきた。


頭が混乱していたわたしは思わず一歩後ずさる。


それを見たママは傷ついたような顔をして、小さく俯いた。


「……どうしてここにいるの?」


有志の声が、冷たい空気にしんしんと響く。


ママはなんとも言えない目をして有志を見つめながら、かすれた声で返事をした。


「有志と青に、会いにきたの」


肩が震えている。


寒いからというのもあるだろうけれど、ママの表情にはまぎれもない緊張が浮かんでいた。


「……そう。じゃ、もう用は済んだわけだね」


沈黙のあと、有志が妙に明るい声で言った。


ママに向かって、にっこりと微笑む。


「帰りなよ、僕はもう家の中に入るから」


そしてわたしを振り返り、


「青はこの人と話したいことある?あるんだったら手短かにね、今日は冷えるもの」


何がなんだか分からないという顔をしている唯流の手を引いて、振り返りもせず玄関の方へ歩いていく。


「ゆ、有志、いいの?お母さんなんでしょ?」


唯流の小さな叫び声が、いやに鼓膜を震わせた。


ママはなす術もなくといった感じで、あたたかな家の中に入っていく有志を見守っていた。


「……ママ?どうしていきなり?ずっと、会ってなかったのに」


できるだけ優しい声で、悲しげな顔をしているママに話しかけた。


わたしを見たママは、寂しそうに微笑んで言った。


「ママね、お仕事で海外に行くの。それでね……もう二度と帰ってこないだろうから、あなたたちに会っておきたかったの」