「……あれ?屋上だれもいない…」


見上げてみたはいいものの、なぜか屋上には誰もいなかった。


新田と田城は連れ去られたとしても、誰かいてしかるべきなんだが。


「……何突っ立ってんですか、青さんと…真昼王子」


はっと横を見ると、ある人物の頭上が見えた。


視線を下にスライドさせると、新聞部の某エースがニヤニヤとこちらを見ている。


「お二人さん、仲良くならんで何をしてらっしゃるかな?通行の邪魔…はともかく、詳しく聞かせてほしいですなぁ」


…別に詳しく聞かせる話などないのだが。


わたしは蓮の質問をスルーして、素早く尋ねた。


「ねぇ蓮、新田と田城、どこ行ったの?」


「あの2人なら、まだ放送室にいるか、どこかで説教くらってんじゃないですかね。なんせあんだけ派手にやったんだから。」


蓮がやけに上機嫌に笑って答える。


わたしはというと驚いて目が点になっていた。


「あれ、屋上じゃないの?」


「今年は機械の不備で仕方なく放送室だったんです」


蓮の目に、小馬鹿にするような色が浮かぶ。


「つか、屋上でやってたんなら、田城さんの声があんなはっきり聞こえるわけないでしょうが。マイクを2人でレースでもしない限り。」


……確かに。


わたしと真昼は顔を見合わせてふぅとため息をついた。


そろいもそろってあまり頭の働く方ではないのである。


「…お二人さん、気づいてないんなら気づかせてさしあげますがねぇ。」


蓮がニヤニヤと笑ってわたしと真昼を交互に見る。


いやな予感がするんだが。


真昼も劇の練習で蓮と一緒だったせいか、同じ予感を抱いているようだ。


「青さんと王子、さっきからずっと手ェ繋いでますよ?」


……へ?


わたしは慌てて自分の左手に目をやり、慌てて真昼の手を離した。


本当に無意識だった。


気づいてなかった自分が空恐ろしい。


顔から血の気が引く。


手を繋いでいる姿を、女の子たちの前にさらしてしまった。


……弁当どころの話ではない。


真昼は(当たり前だけど)自覚があったらしく、なんだそんなこと?みたいな顔をしている。


「青さん、ズバリっ王子とのご関係は?」


……姉弟です。



とは言えず、なんとか話をそらさんと、今旬の話題をふってみる。


「蓮、新田と田城はいいの?ただでさえ田城絶賛無視してたのに、あんな大げんかして?」


「ん?ああ、あの2人ならもう大丈夫でしょうよ」


蓮の顔に、田城が関わる時だけ見せる穏やかな笑みが浮かぶ。