『えーと、ある特定の奴への苦情なので、適当に聞き流して下さい。』


すぅーっと息を吸い込む音がスピーカーごしに聴こえた。


何を言うつもりなのかと耳をそばだてたが、その必要はなかった。


『成海のバーーカッ‼いつまでシカトこいてる気だよっ


いいかげんしつけぇんだよ!


話しかけてもキレーにスルーしやがってっ


ばーか!ばーか!


だいたいお前は昔っから……』


マイクなんて必要ないんじゃないかっていうくらいのとんでもなくでかい声で田城に罵声をあびせはじめた新田に、わたしはただあっけにとられるしかなかった。


それは真昼も同じだったらしく、わたしと顔を見合わせて肩をすくめる。


「これ、何事?」


変な顔をする真昼に、ああそういえば真昼は知らないんだっけと気がついた。


新田と田城が幼馴染で、新田のポカが原因で現在田城がシカトこいてること。


えんえんと続くかと思われた罵声だが、さすがに先生たちもこれをほおっておくわけにはいかなかったらしく、やめなさいっ、と制止する声が入る。


新田の手からマイクを奪おうとしているようだ。


しかし新田も負けてはいないらしく、なおもマイクに怒鳴りつけている。


「龍、おかしくなっちゃったの?」


不安げだが、少し愉快な色を浮かべて真昼がつぶやいた。


「もとから新田くんはおかしいでしょ」


「でも、良いやつなんだよね」


「……それは知ってる」


『ふざけんなっ』


その時、新田以上に聴き慣れた声が、スピーカーから流れた。


先生たちも新田からマイク奪うんじゃなくて電源切っちゃえばいいのに、と思っていたが、テンパっているのであろう先生たちに感謝した。


田城が新田に話しかけた。


おそらく、二年ぶりくらいに。