「…そろそろ、はじまるな」


二人そろってぼんやりしていると、真昼がなにやらポツリと呟いた。


「何が?」


わたしが首をひねると、真昼は頭上に設置されているスピーカーを指差した。


「去年もあったでしょ。『風道中生、叫びます‼』とかいう変な催し。」


「あー、あったね、そういえば」


わたしは得心してポンっと手を打った。


『風道中生、叫びます‼』とはこの学校で文化祭がはじまった頃からある伝統的な催し…らしい。


なにぶんこの学校には一年半しかいないので、らしいとしか言いようがないのだが、どのような催しかと言えば、名前の通り、この学校の生徒が叫ぶ催しだ。


叫ぶ場所は屋上。


実行委員に希望を申し出た生徒がマイクを持って現れ、突如自分の胸のうちを叫び出す。


去年は、好きな子に告白する奴やら、英語の授業スピードを緩めてくれと半ば本気の懇願をする奴やら、五年以内に世界征服することを宣言した奴やらと、なかなかバラエティに富んでいた。


「今年はどんなかなぁ」


柄にもなくわくわくしながら真昼に言うと、


「どーせ、くだらないよ」


とつまらない答えが返ってきた。


「もう、なんなの」


わたしは少しむっとして、真昼の鼻をぐっとつまんだ。


「ちょ、なにっ」


痛いのか、真昼の顔が真っ赤に染まる。


「だって、真昼、最近そっけないんだもん」


鼻が曲がってもいけないので離してやると、真昼はわたしをキッと睨んだ。


「別に僕がそっけなかろうと青はどうでもいいんじゃない?とっても仲良しの百合人がいるし」


……とっても、のところがやたら強調されてた気がするのはわたしの気のせいだろうか。