先輩は曲名をつきとめた次の日から、いつか『水の戯れ』を弾くために音楽室でピアノの独学を始めた。
天使はあの日以来、音楽室には二度と現れなかったが、先輩はいつかあの天使のように音と戯れたいと、ピアノの前に座っている。
それだけ本気なら、本格的にならったほうがいいんじゃないかといつも思うのだが、そのせいで先輩が音楽室に来なくなるのは嫌だから、何も言えずにいる。
……天使か。
わたしは皮肉っぽい笑みを口許に浮かべた。
「わぁ、何だその馬鹿にしたような笑みは」
と先輩がぷぅっと頬を膨らませる。
わたしは首を振って、
「別に馬鹿になんかしてないですよ、さぁ、わたしは本読んでますから、頑張って練習して下さい。」
と先輩から少し離れた。
「本読むんだったらここじゃなくてもいいのに。」
先輩が何気なくそんなことを口にする。
ズキリと心が痛んだが、わたしは笑顔を見せて、
「音楽室って居心地から。」
と返した。
そんなもんかね、と先輩が不思議そうな顔をする。
わたしが音楽室に来るのは先輩のピアノを聴くためであり、先輩に会うためだ。
しかし、本人に向かって堂々とそれを言えるような性格はしていない。
天使はあの日以来、音楽室には二度と現れなかったが、先輩はいつかあの天使のように音と戯れたいと、ピアノの前に座っている。
それだけ本気なら、本格的にならったほうがいいんじゃないかといつも思うのだが、そのせいで先輩が音楽室に来なくなるのは嫌だから、何も言えずにいる。
……天使か。
わたしは皮肉っぽい笑みを口許に浮かべた。
「わぁ、何だその馬鹿にしたような笑みは」
と先輩がぷぅっと頬を膨らませる。
わたしは首を振って、
「別に馬鹿になんかしてないですよ、さぁ、わたしは本読んでますから、頑張って練習して下さい。」
と先輩から少し離れた。
「本読むんだったらここじゃなくてもいいのに。」
先輩が何気なくそんなことを口にする。
ズキリと心が痛んだが、わたしは笑顔を見せて、
「音楽室って居心地から。」
と返した。
そんなもんかね、と先輩が不思議そうな顔をする。
わたしが音楽室に来るのは先輩のピアノを聴くためであり、先輩に会うためだ。
しかし、本人に向かって堂々とそれを言えるような性格はしていない。

