悪魔的に双子。

先輩が放課後の一人練習を始めたのは、一年生の秋らしい。


先輩もまた、わたしと同じ。


見知らぬ誰かの弾くピアノに導かれ、音楽室にやってきた。


「俺、感動して泣いちゃったんだよ」


先輩は以前、照れ臭そうに笑ってわたしに言った。




先輩は当時から部活動には入っていなかったのだが、その日は委員会があり、帰りが遅くなった。


下駄箱に向かおうとしたその時、どこからかピアノの音が聴こえてきた。


何故か先輩は、いてもたっても居られなくなり、音のする方へ走っていったらしい。


そして辿り着いたのは音楽室で、そこで天使がピアノを弾いていた。


「……はい?」


天使という単語を聞いた時、わたしは聞き間違えかと思って聞き返した。


「だから、天使がいたんだってば」


しかし、それは聞き間違えでは断じてなく、先輩は熱に浮かされたような顔をして続けた。


「すごく綺麗で……空が赤かったから、顔ははっきり見えなかったんだけど、あれは天使だよ。」


天使の奏でる音は一つ一つ煌めいていて、先輩はただ立ち尽くして聴き惚れた。





曲が終わりはっと気づいた先輩は急に恥ずかしくなって、天使に存在を気づかれることなくその場を去ったらしい。


そして先輩の中だけに、綺麗な天使とピアノの思い出が残った。


先輩は動画なんかで必死で天使が弾いていた曲を探した。


ようやく見つけたその曲はラヴェルの『水の戯れ』