「とにかく、青」


中身は大差ないが背は高くなった中学生の真昼がわたしの顔をのぞきこんで言った。


「百合人に何かされたら言うんだよ」


小さな妹を諭すお兄ちゃんのような口振りに思わず小さく笑いが漏れた。


わたしの反応に真昼が片眉をつり上げる。


「笑いごとじゃないよ?有くんが手を焼いてる唯流のふてぶてしさなんて百合人の嫌な奴っぷりに比べたらお腹くすぐられてるようなもんなんだから」


「……唯流のことふてぶてしい子だって分かってるんだ」


唯流にとことん甘い真昼の口から出た意外な言葉にわたしの笑みはますます深まった。


唯流のことは可愛いけど、日々イライラさせられている身からするとちょっと清々しい。


「まぁ、あのふてぶてしさは唯流の長所でもあるけど……真昼」


ちょっと拗ねた横顔の耳たぶを軽く引っ張ると、真昼が驚いたような顔をしてほんのりほっぺを赤く染めた。


「ありがと、おやすみ」


わたしが言うと、少し間を置いて、


「おやすみ」


とやわらかな笑顔が返ってきた。


なぜかゆっくりと色素の薄い瞳が近づいてくる。


わたしがはてなを頭に浮かべている間に、ふわりと頬に温かな感触があった。


それが真昼の唇だとすぐには気づけなくて、わたしはぽっかんと離れていった真昼の顔を見つめた。


やっと何がおきたか理解したわたしは首を傾げていつになく真剣な顔をしている真昼に尋ねた。


「………なんでキスするの」


「……なんとなく」


今度は困った顔をして真昼がうつむく。


はてなが浮かんだまま、わたしはなんとなく目がうるみかけているように見える真昼の頭を軽くなでて、殺風景な部屋を出た。


自分の部屋に帰ってベッドのはしに腰掛けた。


少し冷静になって真昼の唇が触れたところに手をおく。


自分の頬がいつもより熱をもっているように感じるのは気のせいなんだろうか。


もやもやしているうちに何時の間にか眠っていた。