チラリと女を確認すると震える手で俺の服の裾を必死で付かんでいた。

……取り合えず、追っ払うか。



「オッサン、俺とやる?」

「…あ、あぁ?」


静かに落ちていた小石を拾うと俺は小石をオッサン目掛けて投げた。


「グアッ!」



手に当たってバットを落としたオッサン。

こっちに転がってきたバットを今度は拾い上げる。


「もーらい。さあ、オッサンはどーするよ」

「……チッ!覚えてろ!!」


一々覚えるか、阿呆!

俺はお偉いさんを覚えるのに必死なんだぞ、馬鹿!



はあ、と溜め息をついてバットを捨てる。

どっかの野球少年が拾うだろう。



「あの…」


涙ぐんだ目で見上げる女。

あー…こっちはこっちで面倒くせぇ。



「…大丈夫?」

「あ、はい。…ありがとうございました」


ペコリと頭を下げたので、俺は上げるように言う。


「大丈夫なら結構。じゃあな」

颯爽と去っていこうとする俺の服をまた掴み、止められた。


「…あの!」

「……何」

「名前…教えてくれませんか?」


はい、来ましたー。

名前を聞いてー
俺は名乗るほどのもんじゃねーって言ってー
でもまたバッタリ合ってー
恋に落ちるよくあるパターン。


だが、残念。

俺は住み込で働いてるから合う事はないだろうよ。