それにしても、風が絶えて、蒸し暑い夜だった。
私はさっきから扇風機の風がこちらに向くときだけに集中してご飯を食べていたのでちっとも進まないのだ。こう暑くては、とても。
「・・・つけろって」
ぼそっと低い呟きが聞こえた。
「え?」
「エアコン」
「いや、だからね」
私がまた節約だと言い出す前に、ヤツはその長い手を伸ばして新聞の下に隠しておいたリモコンを押してしまう。
壁のエアコンが音を立てて動き出し、私はくそう!と唇を尖らせた。折角隠しておいたのに!いつの間にリモコンを見つけていたのだ!油断も隙もないわね・・・。
前に座った男がしれっとした顔で私に言う。
「窓、閉めないと、余計に勿体無いんじゃないか?」
「・・・あんたが閉めたらどうなのよ」
エアコンつけたのおめーだろうがよ!そう思って不機嫌に言うと、やつはまたお箸を動かしながら言った。
「俺は別にこれでいい」
「勿体ないと思うんなら閉めなさいよ~!」
「・・・思わない」



