あ、面倒くさーい。でもないと瓶が開けれないしなあ~・・・。仕方ないと踵を返してまたバーまで戻った。

「すみません、栓抜きを―――――――」

「カシスオレンジ下さい」

 横から割り込んできた人がそう声を飛ばす。肩もぶつかられて、私は若干ムッとして隣を見た。

 すると、何とその人はさっきの佐々波さん。・・・あら。あらら?

 カウンターの係りの人は私に栓抜きを渡したあとで、彼女にはい、と返事をして背中を向けた。

 何だか不穏な空気を発する佐々波さんの横顔を見て、予感がした。だから私は戻ろうとしたのだ。ぶつかられた苦情は言わずに、お盆に栓抜きを載せて。

 その時、佐々波さんが低い声で言った。


「不倫女が結婚なんて、ずうずうしいわよ」


 ――――――――――え?


 パッと振り返った。

 バーのカウンターに両手を置いて真っ直ぐに立ったままで、佐々波さんは低い小さな声で続けた。

「私、知ってるの。兼田さんが不倫してたこと。人の家庭を壊しておいて、あなたは別の人としっかり結婚するなんて、どんな神経よ」

 周りは煩かった。

 ざわざわと談笑していて、私達の間に漂う空気に気付いた人はいないようだった。