「・・・・えーっと、出発するんだけど?」

 何で優雅に読書してんだよ、君はさ。

 突っ込みは心の中だけにした。

 ヤツはトドメのように欠伸を一つして、だら~っと本を片付ける。そして無言のままで鍵を掴み、財布をポケットに突っ込み、私の目の前に歩いてきた。

 準備、これで完了らしい。

 私は首を少々傾げてヤツの全身を見る。頭の先から、足の先まで。

 いつもの灰色のTシャツ、それとカーゴパンツ。・・・・・・・ないでしょ。

「ちょっと待って」

 手のひらをヤツにパッと見せてから、部屋に駆け込んだ。

 元々ビックリするほど服を持ってなかったヤツのワードローブは、結婚してから私が買いまくった。だから完全に私の趣味だけど、ヤツは文句も言わずそれを着ている。きっと興味がないのだろう。

 クローゼットをひっくり返して何点か見繕い、ヤツの元へ走った。

 露骨に面倒臭そうな顔をしやがった男に仁王立ちになって命令して、さっぱりとした麻のジャケットと黒い細身のスラックスに穿き替えさせる。

「早く早く!遅刻するでしょ!」

「・・・じゃあ何で着替えさせたの」

 堂々とため息をつく彼を睨みつけた。やだよ~、妻同伴で行く同窓会に、そこらのコンビニ行く格好なんて!あんたは良くても私が恥かしい。