玄関の明かりの下で、手を伸ばして彼は、棚の二段目右から3番目のサルビアとヒヤシンスを取り替えた。
「あら、取り替えちゃうの?」
プレゼントは一番上の棚かと思っていた。
私が後ろから聞くと、鉢植を見たままで振り返りもせずに彼が言う。
「・・・失くしちゃダメなものは、ここに置くって決めたんでしょ」
―――――――失くしちゃダメなもの。
合鍵も、ヒヤシンスも。
私はつい、あはははと笑った。その声も、風が夜の中へ連れて行ってしまう。
黄色いヒヤシンスの花も風に揺れる。それを見て、彼も微笑を作っている。
我が家の合鍵は、今度はヒヤシンスの鉢の下にしまわれた。そこは相変わらず棚の2段目、右から3番目の定位置。この子たちは、新しい家が出来て引越ししてもちゃんと玄関横に設置すると決めている。
「ご飯にする?」
私が聞く。彼は振り返って、頷いた。その滅多に見れない柔らかい表情に玄関の明かりが当たって光り、私の瞼に残像を残す。
手を繋いで部屋に戻った。
私が彼にあげたもの。黄色くて、可愛く光をまとうヒヤシンス。
花言葉は―――――――――――――
“あなたとなら幸せになれる”
「続・鉢植右から3番目」終わり



