おお、表情があるじゃあないか!
両手に鉢植を持って差し出しながら、私はじっくりとヤツの顔を観察する。
「・・・・ありがとう」
ぼそっと呟いた低い声。
その間も、ヤツはじっと黄色い花を見ている。
私はドキドキしながらそれを見ている。
・・・・判るかな、これも知ってるかな。これは・・・
ちょっとずつ、彼の表情が変わり出した。口元を中心に、ゆっくりゆっくり笑顔になっていく。
私はその嬉しい変化を、前からぼーっと眺めていた。
彼は黒目を細めて、口元を緩やかに上げた。
「黄色のヒヤシンス」
私は頷く。
「うん。判った?」
「・・・・判った」
私の手から鉢植を受け取って、ヤツはスタスタと玄関へと歩いていく。とりあえず、私も後ろをついて行った。
この男はどうするのだ、一体。
ドアを開ける。外へ出る。10月の夜風が気持ちよく吹きぬけて、彼や私の黒髪を揺らしていく。



