だけど。
だけど、ちゃんと聞いていたんだ。
そして、覚えていた。
「・・・覚えてたんだね」
私が言うと、うんと頷く。
そして最後の一口を口に入れると、それをゆっくり食べて飲み込んでから言った。
「子供生まれたら、ここには住めないし。なら一度に済ませようかと」
一瞬考えたけど、すぐに納得した。
・・・ははあ!なあーるほど!
色々と省略しまくったヤツの言葉を翻訳すると、こういうことだ。
今住んでるこのアパートは、結婚を強引に進めた両家のママゴンズが見つけてきて契約をしたものだ。
このアパートの賃貸契約には、子供不可の文字が躍っている。でもそれは、そこに住んでいる新婚夫婦やカップルに子供が出来た場合は、上階から1階への引越しでオッケーになる、というものなのだ。
要するに、騒音問題で。それにエレベーターがないから、小さい子連れだと確かに上階では厳しい。
そんなわけで、漆原家にも子供さんが出来たなら御一報お願いします、と言われていた。
入居した当時はただの同居人だったから、そんな日は来るはずないから大丈夫と思ってたんだった。
ところが、実際のところ、本物の夫婦になったのだ。



