また珍しく、ヤツが笑った。

 振り向きざまに、口元をハッキリと三日月型に上げて言う。

「尊敬と愛、それに―――――――幸福な家庭」

 両手をシーツの上において、私はそのレアな笑顔をぽけっとみていた。

「じゃ、安静にしてるように」

 ヤツがカーテンを開ける音で、ハッとした。

「あ!ねえねえ!」

 くるりと振り返って、ヤツが私を見る。

「ねえ、あの―――――――・・・」

 私は急いで唾で喉を湿らせた。

 そして、周囲を憚って小声で聞く。

「あの、ね。私の過去の、不倫について・・・君はどう思ってるの?」

 ヤツは、少しだけ首を傾げた。その表情にはいきなり何だ?って書いてあるみたいだった。

 暫くの間を開けて、私が他には何も言わないらしいと思ったか、ヤツがため息をついた。

 そして、実にどうでも良さそうに、シレっと言う。

「・・・やっかいな男に捕まったんだな、と思った」

「・・・・」

 私は一度口を開けて、また閉じる。言葉が出てこなかった。