「ここはどこ?」

「市民病院」

「私はどうしてここに?」

「倒れたんだと」

「・・・どこで?」

 ヤツは目を擦って私を見た。

「覚えてないのか?銀行にいたんでしょ?」

 ・・・・ああ、確かに!いたいた、銀行に。それで、定期預金の解約に混乱して、暑さもあって、ついでに言うと貧血で、倒れちゃったのか。やたらと気持ち悪かったのだけを覚えている。

「・・・運ばれたのね」

 そう、とヤツは頷いて、だら~っと説明した。

「貧血だってさ。鞄の中に手帳があった。実家に警察から電話が行った。で、電話が回って、母親から俺に電話が来た」

 想像してしまった。きっと、冴子母さんはいつものように叫んだはずだ。『大地いいいいい~!!』って。

 苦笑して、私は言う。
 
「ごめんね、仕事中だったでしょ」

「別に」

「よく出れたね、電話」

 ヤツは一度外に出たら捕まえられない男なのに。携帯だって持ってるけど出ないし、メールや着信の確認も仕事中はしないから、携帯ではなく固定電話になっている男なのだ。

 私の問いかけに、ああ、と声を出して、顔をしかめた。

「母親、本社にかけて電話を現場に回してきた」

「あらまぁ~」

 ・・・すげーな、冴子母さん!さすが、息子の行動を読んでる。

 それにしても眩しいな、と呟いて、ヤツが窓のカーテンを閉める。オレンジ色が消えて、彼の髪に黒が戻ってきた。

「親も来てるの?」