鞠乃の足は自然と噴水の場所に向かっていたが、鯉淵の言葉で制止された。

「春仁様がお待ちになっておられます」

振り向くと執事の顔になっている鯉淵が、そして、寂しげな司がいた。

「はい…」

小さく返事をし身体の向きを変えた。

「鞠乃、俺はここにいるから。春仁と話しておいで」

そう言ってウィンクしてきた。

その仕草が妙にいたずらっ子みたいに見えて笑ってしまった。

「参ったなぁ、笑われるなんて…俺は決まったと思ったんだが…」

ブツブツ言いながら頭をかく司が可愛いと思える一瞬だった。

「ありがとう、司さん。私は大丈夫ですから」

「やれやれ、俺のウィンクを見たい女性は沢山居るのに鞠乃は笑うんだなぁ」

そう言いながら楽しそうな司につられ鞠乃も笑っていた。

「そうだ、鞠乃、君は笑っていた方がいい」

「司さん」

司はいつも私に笑顔ををくれた。鯉淵とは違う優しさをくれていたことを思い出していた。

そんな事を思いながら春仁に会うべく鯉淵の後を付いていった。