「司さん…」

なんでここへ?と言おうとしたとき司が口を開いた。

「おかえり…鞠乃…」

司は鞠乃が戻ってきたことで内心ホッとしていた。

鞠乃の幸せを考えればあの生活がいいのは分かる。

でも司は心配でどうしようもなかった。

目の前に鞠乃が居ることが嬉しく自然と笑顔になっていく。

鞠乃はそんな司を見ながら、ほんのり顔を赤くして

「た、ただいま…」

一言呟いた。その言葉が適切なのかも分からない。

鞠乃は”おかえり”と言われる度にアパートに帰れないんじゃないかと不安がよぎっていた。

現実は帰れない、帰ってはいけない、そう言われてる気がしていた。

「鞠乃お嬢様、さあ中へ入りましょう」

赤い目をした鯉淵さんがニコやかに前へきて扉を開けてくれる。

私はその扉の向こうの景色を息を呑んで見つめていた。

そっと司の手が背中に感じ押されるように中へと入っていく。

外壁と同じように、白が基調になっていた。

磨き上げられた白い大理石の床に、両脇には金で縁取った立派な階段。

奥には噴水があり、水音が心地よいBGMに聞こえる。

「変わってない…」

一言呟いたが、ここに戻ってから何度同じ事を思っただろうか。

たかが二年、去れど二年…

鞠乃にとっての二年はとても濃い大切な時間だった。