「週末、お前って暇か?弓道部も、土日は休みだよな?」
「まあ、休みだけど………何で?」
うちの学校は、長期休み中に限っては、土日は部活は休みだ。
先生達も、週末くらいは解放されたいのだろう。
平日に部活に励む代わりに、土日はゆっくり体を休めなさいということになっている。
運動部共通のその決まりを知っていて、矢田は聞いてきたのだ。
素っ気なく聞き返す俺。
笑顔の矢田。
薄気味悪い笑顔で、矢田はこう言った。
「今度の土曜日、海、行かねー?」
「は?」
「だから、海だよ。」
海に行くこと。
それは、この辺りに住む人にとっては、ちょっとしたお祭りみたいな出来事。
山ばかりに囲まれた町。
山は腐るほど見れるけれど、水辺と言えば川と学校のプールくらいしかない。
海がない、内陸にある土地に生まれた俺達の宿命なのだ。
遠く離れた隣の県にまで行かないと、海岸線にはとてもじゃないけど辿り着けない。
車もない。
原付ですら、まだ運転出来ない年齢。
遠距離を移動する交通手段を持たない俺達は子供で、親が同伴しない限りは海には行けないのだ。
それが分かっている俺は、矢田に尋ねる。
「どうやって行くんだよ?誰かの親に、乗せていってもらうのか?」
あいにく、俺の両親は共働きだ。
土日であろうと、休みなんてない。
ただでさえ休みが少ないと嘆く両親に、そんなことは頼めない。
「うちは、結構厳しいぞ。共働きだから、休みないはずだし。」
「違ーう!」
即答で俺の言葉を切り捨てた矢田は、得意気だ。
矢田は、俺が思いもしないことを口にする。
考えもしないことを考えつく。
俺の考えを否定して、矢田はこう告げた。
「電車だよ!」
「電車?」
「電車で行くんだよ!電車を乗り継いで、海まで行くんだって。」
