何もない頃には戻れない。
何もないフリも出来ない。
今まで通り、クラスメイトとしては接してあげられない。
きっと、俺は。
「紺野、………私と付き合って欲しいの。」
「………っ。」
「返事、聞かせてくれる?」
待ってくれない。
答えを引き延ばすことも叶わない。
俺の答えは、既に決まっていた。
「いいよ。………俺で良かったら、だけど。」
増渕のことは嫌いじゃない。
むしろ、好きか嫌いかで言えば、好きに偏る。
きっと、好きなんだ。
増渕は明るい。
一緒にいて、楽しいし。
可愛いなとも思う。
女の子として。
増渕とだったら、上手くやれる。
女の子と付き合ったことなんてないから、そういうことには全く自信がない俺だけど。
増渕が相手だったら、大丈夫。
女の子として見れる。
彼女として、好きになれる気がするんだ。
気がかりなのは、矢田のことだけ。
(矢田、ごめんな………。)
増渕の存在を俺に教えてくれたのは、矢田だ。
矢田が増渕のことを、他の女の子よりも気に入っているであろうことを俺は知っている。
気に入っているというだけでなく、好きでいるのだろうと。
矢田のことを考えなかった訳じゃない。
いいという返事を出す瞬間に浮かんだのは、アイツの顔。
だけど、断るという選択肢は選べなかった。
仕方ないって思った。
そう思い込もうとしていたのかもしれない。
これは、仕方ないんだ。
仕方ないのないことなのだと。
だって、増渕が好きなのは矢田じゃない。
俺だ。
一方通行の想いは、いつか終わってしまう。
いつか、終わらせなければならない運命なのだ。
矢田が増渕のことを好きでいる限り、交わることはない。
増渕が俺のことを好きでいる限り、矢田を見ることはない。
矢田にとっては、切ないだけの運命が巡っているのだ。
