さよならの魔法




気の利いた言葉1つ返せない俺に、増渕は嫌な顔もせずに短く答える。



「………ほんと、だよ。」


目を逸らして、真っ赤になってそう呟く増渕。

その態度で、俺はようやく実感を持って、この状況を受け入れることが出来た。




増渕が、俺を好き。

俺のことをクラスメイトとしてではなく、異性として恋愛感情を持って見ている。


今まで、そんな風に増渕のことを考えたことなんてなかった。



女の子として。

女として。


そういう目で、増渕を見たことなんてなかった。



増渕は同い年で、同級生で。

去年は別のクラスだったけど、今年は同じクラスになって。

クラスメイトで。


俺にとっては、それだけだった。

矢田みたいに、特別視していた訳じゃなかった。



恋愛に対して、興味がない訳じゃない。


俺だって、男だ。

成長途中だけど、れっきとした男だ。


さすがに2年にもなれば、それなりにそういうことにも興味が湧く。

矢田ほどではないにしても。



だけど、まさかこんな身近に、自分のことを想っていてくれる人がいたなんて。

俺のことを好きでいてくれる人が、いたなんて。


思いもしなかった。

考えもしなかった。



(増渕が、俺………を好き、って。)


自覚した瞬間に、すぐこれだ。

真っ赤に染まっていく頬。


俺の目の前に立っている増渕も、夕日みたいに赤い。



そう、増渕の名前みたい。


茜。

夕暮れ時の空の色。

茜色。


その色よりも、今の俺達の顔は鮮やかに染まり過ぎている気もするが。



どうしようかと考えた。


増渕は、クラスメイト。

増渕のことを女友達以上に考えたことも、見たこともなかったから。



しかし、これからは、そういう風には見られない。


俺は知っている。

知ってしまったのだ。



増渕が、俺のことを好きだということを。

俺に対する、増渕の気持ちを。