さよならの魔法




サラサラの髪。

俺の癖のある髪とは違って、指通りが良さそうな綺麗な髪の毛。


つぶらな瞳の奥が、ウルウルと涙で滲んで揺れる。



ああ、女の子なんだ。

増渕って、女の子なんだ。


俺よりも少し小さなその体が、そのことを実感させてくれる。



俺とは違う、体の造り。

男みたいにゴツゴツしてなくて、上手くは言えないけれど、どことなく丸い感じ。


そう、丸くて柔らかい。

そんな感じだ。


少しの沈黙の後、増渕が俯いてこう言った。








「わ、私、私ね、紺野のことが好きなの!」


は?

誰が、誰のことを好きだって………。


増渕の言葉がすぐには信じられなくて、自問自答を繰り返す。



好き。


その一言が、耳の奥でずっと響いてる。

鼓膜を揺らす。


その度に、心臓が飛び跳ねるんだ。



ドクン。

ドクン、ドクン。


何回も何回も高くジャンプして、俺の体から飛び出していってしまいそうな心臓。



こんなこと、初めてで。

生まれて初めての経験で。


体が、心が付いていってくれない。



「………。」


無反応の俺に、増渕は声を震わせながらも、言葉を重ねる。



「1年の頃から、紺野のこと………見てた。ずっとずっと、紺野と仲良くなりたいって思ってた。」


そうだったのか。


俺は矢田に教えられるまで、増渕の存在すら知らなかったのに。

増渕のことを気にかけてもいなかったのに、増渕は俺を知っていた。



俺を知っていて。

俺を見ていてくれて。

俺に、好意を抱いてくれていた。


初めて知る、増渕の心の内。



「知らなかったでしょ?」

「ああ、えーっと………ほんと?」


こんな時に、気の利いた言葉なんて出てこない。


戸惑いもある。

照れもある。