さよならの魔法




「ああ、聞いてる………聞いてる。」

「ほんとにー?」

「ほんとだって。………で、何だっけ?」


何回か、そんなやり取りを繰り返す俺と増渕。

痺れを切らした増渕が、ついに実力行使に出る。


ぼんやりする俺の腕を引っ張って、教室の外へと連れ出そうとし始めたのだ。



「ちょっ、おい………!」

「話があるって、言ってるじゃない。」

「待てって、増渕!」


何故かほんのり涙声の増渕が、強い力で俺を席から立たせ、立ち上がらせる。


どんどん、教室から引き離されていく。

どんどん、天宮がいる教室から離されていく。



待てよ。

待ってくれよ。


助けてあげたいのに、離れてしまう。

引き離されてしまう。



「………?」


最後に一瞬だけ見えた、天宮の顔。

小さく縮こまって、俯いていた天宮。


彼女が振り返って、俺の方を見ている気がした。








増渕に強引に連れてこられたのは、屋上。

入学して以来、近付いたことすらない場所だった。


近付いたことすらないのには、きちんと理由がある。



危ないからとの理由で、立ち入りが禁止されているのだ。

飛び降りられたらたまったものではないとの、学校側の事情もあるのだろう。


テレビのニュースでは、そういう話もよく聞く。



立ち入り禁止と書かれた看板が、屋上へと続くドアの前に置かれている。


ああ、やっぱり立ち入り禁止なんだ。

看板を指差しながら、俺は増渕にこう指摘した。



「ここって、立ち入り禁止なんじゃないの?」


俺の当たり前のその問いに、増渕はクスクスと笑う。


増渕のスカートの裾が、ハラリと揺れる。

世界がほんの一瞬、紺色に染め上げられる。



「じゃーん!」


そう言って、増渕が大袈裟な身振りを交えて、何かを俺に見せてきた。