さよならの魔法




誰かと話していて、彼女が声を荒立てて何かを言うところを見たことがない。

大声で笑うこともない。


それでも、全く聞こえないほどの声量ではないはずだ。

小さい声ながらも、ちゃんと誰の耳にも届いているはず。


それなのに。



磯崎は間違ってる。


こんなの、言いがかりじゃないか。

天宮のことを怯えさせたいが為に、言っているだけじゃないか。



自分は大きな声を出して、威嚇までして。

周りの人間まで巻き込んで、取り囲んで。


磯崎のやっていること。

それは、ただのいじめだ。


くだらない、弱い者いじめだ。




そう、言ってやれればいいのに。

昔、矢田に言ってやったみたいに、言い返してやりたいのに。


どうして、言葉が出てこない?

どうして、口が重くなるんだ?



今だ。

今こそ、天宮を助ける時だろ。


今、助けてやれなくて、いつ、天宮を助けてあげられるのだろうか。



俺は。

俺は。


天宮の異変に気が付いた時の様に、見ているだけしか出来ないのか。

ただ、見ているだけなのか………。




「………。」


罪悪感で、胸が押し潰されていく。

心が、真っ黒になっていく。


真っ黒な雲が、俺の心まで淀ませていくんだ。



ああ、まただ。

また俺は、彼女を助けられない。


見ているだけの傍観者の1人になるんだ。



「もっと大きな声で話してくれないと、聞こえないんだけどー?」

「あははっ、ほんとほんと!」

「あれー、生きてるー?ちゃんと息してるー?」


磯崎の言葉に、取り巻きの女子が反応して笑ってる。


バカにして、楽しげに。

他人を貶めて、自分の存在が上だと完全に思い込んで。


その笑い声が、この上なく不愉快だ。

不快で不快で、堪らない。