さよならの魔法




陰影を出す為に塗られた、濃い色。


写実的なデッサンなのに、どこか幻想的で。

現実離れしていて。


元のスケッチは写真みたいにとても正確なものなのに、乗せられた色が幻想的に思わせているのかもしれない。



心を奪われる。

目を奪われる。

その場にいる者の心をさらっていく、そんな絵。


誰が見ても言葉を失ってしまう様な素晴らしい絵を、案の定、先生も絶賛していた。



「わぁ、素敵ね。こんな短時間で、これだけの絵を描けるなんて………すごいわ!」


両手を叩いて、天宮を褒め称える先生。


専門家でもある、美術科の先生がそう言うのだ。

素人目に見たって、天宮の絵はいい絵なのだと言わざるえない。



「すいません。………もっと、ちゃんと仕上げたかったんですけど。」

「十分よ。むしろ、十分過ぎるくらい!!」


そんな天宮に、あの磯崎が快い感情なんて抱くはずがなかった。





「あ、あれは………たまたまで………。」


天宮の声が、尻すぼみに小さくなっていく。

天宮の言葉に被せて、磯崎が大きな声を出して威嚇する。



「えー、何か言った!?」

「………っ、………。」

「天宮さんの声って小さいから、ぜーんぜん聞こえないんだよね。」


何とか上手く逃げようとする天宮を、強い口調の磯崎が捕らえた。


教室中に聞こえる様な、大きな声。

まるで、この教室にいる全員に聞かせているかの様な。



その声は、もちろん俺の耳にも届いている。

聞きたくなくても、しっかりと聞こえてしまっている。


磯崎の強い言葉に、俺の心が激しく揺さぶられた。




ああ、胸糞悪い。

磯崎の声を聞いているだけで、苛立ちが募る。


そりゃ、天宮の声は大きい方ではないことは確かだ。