さよならの魔法




俺の目の前で繰り広げられているのは、いじめだ。


卑怯者のやること。

心根の腐ったヤツがやること。


目の前で確実に困っている人がいるのに、それを知らんぷりしてろって言うのか。



いつ、踏み出す?

いつ、手を差し伸べる?


善人ぶるつもりなんて、毛頭ない。


だけど、天宮を見ていると、どうしても助けてあげたくなるんだ。



頼まれてもいないのに。

誰かにそうしてやれよって、言われてもいないのに。


どうするべきか迷っているうちに、俺より先に磯崎の方が動き出してしまった。




「うわ、何………これ!」


磯崎が手にしていたのは、1枚の紙切れ。


その紙切れの持ち主は、天宮。

天宮の机の上にある紙切れを、磯崎が無断で取り上げたのだ。



あいにく、俺の座る席からでは、その紙切れの中身までは確認しようもない。

天宮から取り上げた紙に、何が書かれているのか。


それを知るのは、磯崎ただ1人。



しかし、やっていいことではない。

許されることでもない。


人の物を黙って取り上げるなんて、それじゃ、泥棒と変わらない。

同級生だからって、クラスメイトだからって許されるものでもない。



取り上げられた紙切れを取り戻そうと、天宮が必死に手を伸ばす。

天宮の小さな手が、空を切る。


手が届きそうになった瞬間、磯崎の手から別の女子の手へと渡っていく紙切れ。



天宮が、小さな声で叫んだのが分かった。



「か、………返して………っ。」

「いいじゃない!こーんな場所にまで絵を描いて、さすがは天宮さん。」


磯崎の声が、一段と甲高くなる。


妬みに満ちた声。

磯崎の耳にやけに残る声が、次の言葉を発する。