パタパタと、下敷きを団扇代わりにして扇いでみる。
そうすれば、少しはマシになるんじゃないか。
そう思ったからこその行動だった訳だが、その目論みは泡となって消えた。
生温い風が下敷きから送られてくるだけ。
夏物の制服の白いシャツが、わすがにはためく。
実際は、体感温度なんて大して変わらない。
(ん?)
そんな時に目に入ったのは、ある光景だった。
まるで、そこだけが別の世界になったかの様だ。
薄暗くて、異様な雰囲気に満ちた一角。
教室の一角を覆う、薄暗さ。
その正体は、同じクラスの女子連中。
中心人物は、またあの女。
磯崎 紗由里。
クラス替えがあったばかりの頃、天宮を囲んでいた女。
大勢で彼女の席を囲んで、天宮を怯えさせていた女だ。
今日の標的も、また彼女。
天宮であるらしい。
磯崎とその取り巻きの女子数人が、今日も天宮の席を囲んでいた。
聞き耳なんて、好きじゃない。
悪いことをしている気分になるし、他人の話を黙って盗み聞きするのは気が引ける。
でも、気になるんだ。
どうしても気になる。
放っておけない。
そう思うのは、俺の中に確かに存在しているはずの正義感から生まれるものなのだろうか。
どうしても気になってしまうのは、悪いことをするヤツを許せないからなのだろうか。
弱々しい瞳の天宮。
今にも泣き出してしまいそうなのに、天宮の目からは涙が零れることはない。
すぐに崩れ落ちてしまいそうに見える奥にあるのは、強い心。
星の瞬きの様に、闇の中で光る心。
助けたい。
困っている人を助けてあげたい。
だって、見捨てられないだろ。
しっかりこの目で見ているのに、見てないフリなんて出来ないだろう。
