いじめられている自分。
ずぶ濡れになって、どうしようもなく汚れた制服を着た自分。
他の誰でもない、紺野くんにだけは見られたくない。
見て欲しくない。
どうしてだろう。
こんな時にまで、すぐに紺野くんを見つけてしまう。
いつだつて、紺野くんを真っ先に見つけてしまう。
いつも、そうだ。
無意識に、紺野くんの姿を探してた。
教室の隅で、視界の端に映る彼を目で追っていた。
体って、すごく正直に出来てる。
正直過ぎて、自分でも困ってしまうほど。
いつも無意識に探していたからこそ、こんな時にまですぐに見つけてしまうのだ。
ああ、視力が悪かったら良かったな。
目が悪かったら、見えなかったのだろうか。
大好きな紺野くんの顔が、はっきり見える。
紺野くんの細かな表情まで見えてしまう。
揺らぐ瞳。
困った顔。
いつも明るい笑顔の花が咲いているのに、紺野くんの顔からは笑顔が消えてしまっている。
そんな顔、見たくなかった。
いつものあの笑顔のままで、紺野くんには笑っていて欲しい。
自分勝手な願い。
独りよがりな願いだけど、それでも好きな人には笑っていて欲しいと思う。
大好きな紺野くん。
紺野くんの笑顔を消したのは、私。
紺野くんに困った顔をさせているのは、私なんだ。
磯崎さんに何を言われても、グッと堪えられた。
耐えられた。
慣れているから。
磯崎さんにいじめられることに、耐性がついてしまっているから。
そんなことよりも、紺野くんの笑顔を消していることの方がつらい。
紺野くんを困らせていることの方が、何倍も悲しい。
磯崎さんにされたことでは泣かなかったのに、ちょっとだけ泣きそうになる。
「………!」
足早に美術室を出た私は、更衣室へと駆け込んだ。
1粒だけ、流れた涙。
それは、ほろ苦い味。
