side・ハル







止めて。

止めて。



「こっち来ないでよ!」


あの声が聞こえる。

あの声が、頭の中をグルグル回るの。



「やだー、汚なーい!バイ菌が移るー!!」


汚なくないよ。

ちゃんとお風呂にも入ってるし、手だって洗ってる。


どうして、そんなことを言うの?

ねえ、どうして。




あの頃の記憶が巡る。

渦の様に、グルグル巡る。


螺旋階段の如く、永遠に続くスパイラル。



このスパイラルは、どこまで続くのだろう。

どうやったら、抜け出せるのだろう。


誰か、教えて。

誰でもいいから、教えて下さい。




夢じゃない。

始業式の朝に見た夢みたいに、悪夢だったとそれだけで終わらせられるなら、どんなに幸せだっただろう。


これは、現実。


夢なんかじゃなくて、紛れもない現実だ。



夢でもない。

終わりもない。


誰も助けてくれない。

抜け出すことも叶わない。



この残酷な現実を、地獄と名付けよう。

終わりのない、地獄と。


救いようのない現実から逃げ出す術を、私は知らない。








季節は巡り、時は流れる。

麗らかな春は過ぎ、季節は夏になった。


目にも鮮やかな緑が生い茂り、景色の中に緑が溢れ出す。


その緑を濡らすのは、雨。

梅雨時の細かな雨が、緑に染まる景色をしっとりと包み込む。



湿気で満たされた空気。

ジメジメとした空気と比例する様に、私の心も沈んでいく。


もっとも、私の心が沈む原因は、梅雨のせいばかりではなかった。






「はーい、じゃあ、授業を始めまーす。」


昼休み直後の5時間目。


今日の5時間目の授業は、美術。

絵を描くことが好きな私の、1番好きな授業だ。



「今日は、この間の続きをやってもらおうかな?風景画を描いてもらいまーす。」