さよならの魔法




美大を卒業したばかりの私なんかよりも、ずっと詳しいのだ。



「じゃあ、佐々木様がお好きな紅茶、お淹れしますね。」

「天宮さん、お願いするわね。」


今日は、佐々木様がいらっしゃるんだ。

とっておきの紅茶の茶葉を使って、美味しい紅茶を淹れなければ。


オーナーとのやり取りの後、奥にある控え室へと向かった。




控え目なボリュームで奏でられる、クラシック。

静かな空間の邪魔にならない様にと、音量をわざと下げてかけているのだ。


絵を第一に。

絵を最優先にと考えられてかけられた調べが、鼓膜に心地よく響く。



ビルとビルの合間にある、小さなオアシス。

現代人の心を癒す空間。


それがオーナーの考える、この画廊の在り方。


絵を見ること。

絵を感じることに全ての重きを置いて、この画廊の細かな部分はオーナーによって決められている。



真っ白な壁にかけられた、たくさんの絵画。

オーナーの趣味で買い付けられたり、オーナーと個人的な付き合いのある画家に依頼して、描いてもらった作品が並んでいる。


オーナーの趣味とはいえ、なかなかのものだと私はいつも思っている。



(そういえば、オーナーも美術系の大学の出身なんだっけ。)


美大を出たからといって、そこを卒業した全ての人がセンスがあるという訳じゃない。


審美眼というものは、学ぶだけでは鍛えられないと思うから。

生まれ持っての素質、本人のセンスというものがあるのだと思う。


人により好みはあるのだろうけれど、私はオーナーの選ぶ絵が好きだ。



たまに人物画もあるけれど、そのほとんどは風景画。

写実的なものもあれば、少し現実離れした幻想的なものもある。


共通して言えるのは、そのどれもが素敵だと素直に思えることだ。


見ているだけで、心が癒される。

そして、目を奪われ、心が熱くたぎる。



思うのだ。


ああ、私もこんな絵を描いてみたいと。

ここに飾ってもらえる様な、そんな素敵な絵を描きたいと。