さよならの魔法




ブランコを漕ぎながら、紺野くんがそう言う。

あの頃と変わらず、明るい声で言う。


きっと、笑っているのだろう。

私が好きになったあの笑顔で、今も笑っていてくれるのだろう。



紺野くんの笑顔は嬉しい。

紺野くんの言葉はありがたい。


けれども、言われたこっちは照れてしまう。




(は、恥ずかしい………!!!)


恥ずかしい。

恥ずかし過ぎる。


まさか、6年後にあのチョコレートの感想を聞かされるだなんて。

届いていないと思っていたチョコレートの感想を、今、聞く羽目になるなんて。



私が書いた、あのカードを見るまでもない。

磯崎さんの言葉だけで、あの場にいた人間なら気が付いていただろう。


私が、紺野くんを好きであったこと。

紺野くんの為に、あのチョコレートを作ったことは。



あのチョコレートが紺野くんの手に渡っていたということは、当然、私が書いたカードも紺野くんの手に渡ったということになる。

磯崎さんの口から聞かされたものではない、私の気持ちを知っている訳で。


考えただけで、顔から火が出そうだ。

穴があったら、穴の底まで隠れてしまいたい。


それくらい、私にとっては恥ずかしいこと。

恥ずかしくて、堪らないこと。



何年経っても、変わらない。


6年経った、今でも。





紺野くんが乗るブランコが、空高く舞う。

高く高く、舞い上がる。


夜空に舞うブランコは、空を飛んでいるみたいだった。



遥か頭上に舞い上がったブランコから降ってくる、紺野くんの声。

紺野くんの言葉。


真綿の様に柔らかな言葉が、頭上から降り注ぐ。



「ずっと、お礼を言いたかったんだ。言えないまま、卒業しちゃったから。…………ありがとう、天宮。」

「………。」


そうなんだ。

そうだったんだ。


だから、紺野くんは、私を誘ってくれた。

この言葉が言いたかったから、紺野くんは私を追いかけてきてくれた。