気にしていたのは、私だけだった。
過去を引きずっていたのは、私だけだった。
5年前の記憶に囚われて、動けなくなって。
トラウマという名の鎖に自ら縛られて、苦しんで。
立ち止まってばかりいた。
後ろを振り向いては、悲しみに心を揺られていた。
そんなことをしているうちに、みんなは先に進んでいたのだ。
過去を忘れて、とっとと未来に向かって走り出していたんだ。
5年前のいじめなんか、みんなの中では忘れられている。
なかったことみたいに扱われている。
いじめられた方には強烈な記憶として残っていても、いじめた方には大したことのない過去として脳内で処理されていたのかもしれない。
悔しかったよ。
憎んだよ。
覚えているのは、私だけなの？
あんな思いをしたのに、みんなは忘れてしまったの？
そう思ったのも、確かだ。
もう、バカらしくなった。
呆れてしまったんだ。
気にしているのは、私だけで。
みんなの中では、なかったことみたいに記憶からあのいじめは消されていて。
自分だけが気にしていることが、急にバカらしく思えてしまった。
その瞬間、鎖は切れた。
長年、私の心を縛っていた鎖はあっさり切れてしまったのだ。
いじめられていた過去。
ひた隠しにしていた、暗い記憶。
封じ込めていた過去を解き放った価値は、確かにあった。
トラウマという名の鎖を、私は自分の手で断ち切ることに成功したのだ。
トラウマから解放されても、過去は変わらない。
過去は常に私の中に存在していて、消えることはない。
これからも、思い出しては泣くことだろう。
苦しくなることもあるだろう。
しかし、今までとは違うはず。
そう、私は信じている。
忘れることは無理でも、過去を踏まえて、先に進むことは出来る。
過去の経験が、未来に生かされることもあるのだと。
そう思うから。
思いたいから。
