さよならの魔法




今日の為に、張り切ってお洒落をしてきたのだろう。

着飾った女の子達の群れの中に、あの子がいた。


天宮がいた。










(天宮………大丈夫かな。)


心配になってしまうのは、どうしてだろう。


あの頃の記憶が、俺の中に存在しているせいだろうか。

それとも、助けられなかったことが尾を引いて、未だに彼女を心配してしまうのだろうか。



こっち、向かないかな?

そうは思っても、視線が合うことはない。


まるで、避けられてでもいるかの様に。


俺と天宮の目が合うことは、一瞬たりともなかった。



背中しか見えない。

顔さえ見えない。


狭い店の中なのに、遠く感じる。

小さなその背中が、遥か遠くに感じてしまう。



話したいのに、話せない。

近寄りたいのに、近くに行けない。


そのタイミングが分からない。



ああ、これが合コンだったら、もっと気軽に近くに行けるかもしれない。

くじ引きなんかをわざとやって、天宮に自然に近寄れたのかもしれない。


やっと、この日が来たというのに。

天宮に、せっかく会えたというのに。



そうこうしているうちに、俺よりも先に女の子達の群れの中に突っ込んでいく1人の男の姿が目に入った。




「………!」


あれは、誰だ。

誰なんだ。


もしかして、松島か?



真っ白なパーカー。

細身の俺よりも、倍くらいは大きな体。


中学時代から大きい方だったけれど、大人になった今では更に差が開いてしまっている気がする。



大きな後ろ姿が、華やかな女子の固まりの中で浮いている。


気軽に突っ込んでいったその背中を、俺は心底羨ましく思っていた。



「松島じゃん!すごい久しぶりー。」

「おー、卒業以来じゃねえ?」

「久しぶりなのはいいんだけど、ここは女子会エリアなんだからさ!男は、あっちに行っててよー。」


群れの中の女の子達から、非難の声が次々に上がっている。