さよならの魔法




気まずさを紛らわせたくて、ビールをほんのわずかだけ口に含む。


苦味と炭酸の泡が、喉を通り過ぎていく。

食道を通り抜け、胃の中へと落ちていく。



「嘘だろー!ずっと付き合ってんのかと思ってたよ………。」

「お前達、全然別れてる様な感じしなかったじゃん!!」

「ほんと、ほんと。俺なんか、今でも信じられねー………。」


俺の予想通り、誤解されていたらしい。

ここまできて、信じられないと言われる始末だ。


誤解するのも、我ながら無理はないとは思うが。



茜のスキンシップの多さは、付き合っていた頃から変わらない。

他の男には同じ様に触ったりなんてしないのに、俺だけにはやたらと触れたがる。


自意識過剰だと言われれば、それまでだけれど、あながちそうでもないだろう。


俺だって、本人でなかったら誤解していただろうから。



「だーかーらー、何度も言うけど、もうとっくの昔に終わってんの。」

「ほんとかよー?」

「ほんとだって。そういう風に言われんの、俺だって茜だって困るんだよ。」


いや、困るのは俺だけかな。

誤解されて嬉しそうに笑っていた隣の元カノは、多分、誤解されていたままであった方が良かったのかもしれない。


俺の言葉を区切りにして、この話題はあっさりとそれ以降、口に出されることはなくなった。



「………っていうかさ、みんなは免許取った?」

「当たり前じゃん!車がなきゃ、どこにも行けねーよ。」

「だよなー!」

「俺、今、教習中なんだけど。」

「わ、マジで?頑張れよー!」

「俺、本検落ちまくって大変だったぞー。」



話が流れた後でも、茜は俺の隣から離れようとはしなかった。

唇をギュッと噛み締めたまま、みんなの話に作った笑顔で応えて。


居心地の悪さを感じつつ、みんなとの会話に答えながらビールを煽る。

チラチラと、座敷の隅を気にしながら。



座敷の一角。

俺とは離れた位置に陣取るのは、同じクラスだった女の子達。