さよならの魔法




茜がどう考えているかは、俺には分からない。

少なくとも、俺と違う考えを持っていることだけは確かだけれど。


俺と同じことを思っているのなら、俺の様に否定する言葉を口にしていただろうから。



俺には無理だった。


誤解されたままで、この場を過ごすのは。

例えもう会わないかもしれなくても、このままそう思われているのが精神的に耐えられなかったのだ。




「ユウキ………!」


鋭い視線が、真横から向けられる。

俺を睨む様に見つめているのは、もちろん茜だ。


否定した俺を責めるみたいに、鋭い視線を向けてくる茜。



でも、仕方ないだろ。

これ以外、どうしろと言うんだ。


真実なんて、1つしかない。

真実は、変えようがないこと。



俺と茜は、あのバレンタインデーの日に別れた。

俺の自分勝手さからだけれど、離れることを選んだ。


それからこの6年、よりを戻したことはない。

1度だって、茜とまた一緒に同じ時を過ごそうと考えたことはない。


それが、俺と茜の間にある真実だ。



嘘を言って、それを信じてしまわれたらどうするんだ。

聞かされた人間にとっては、それが真実に変わってしまうだけなのに。


そこに気持ちなんてない。


嘘から生まれる真実なんて、ないんだよ。



「は?付き合ってないの?」

「え?あ、6年前って………いくつん時だよ。」


同じクラスであったヤツらも、ずっと誤解をしたままだったらしい。

今はどうであれ、中学を卒業するまで付き合っていたと思われていたことが分かる。


その疑問点に答える様に、みんなの疑問の糸をスルスルと解いていく。



「中2の時。」

「へ?中2!?」

「そう。第一、俺達、半年くらいしか付き合ってなかったから。」


熱く語ることでもない。

俺にとっては、過ぎ去ってしまった過去のこと。


ドライにそう話す俺とは対照的に、周りのヤツらはひどく驚いていた。