さよならの魔法




「お前ら、相変わらずなんだなー。」

「目の前でいちゃつくなよ!見てるこっちが恥ずかしいわ!!」

「なにー、紺野達って、まだ付き合ってんの!?」


冷やかしの言葉ばかりが、周りの男どもから浴びせられる。

それを聞いている茜は、肯定するかの様に嬉しげな表情。




冗談じゃない。

誤解なんかされたくない。


勘違いされて、それが嬉しいのか。

そもそも、それが狙いで俺に近寄るのか。



俺は誤解されたくない。

今は大して関わりのないヤツらにだって、誤解されたままでいるのは嫌だ。


肯定するかの様に頷こうとした茜を、俺は冷たい視線とともに止めた。



「お前ら、長いよな?もしかして、結婚とか考えてたりするの?」

「け、結婚!?まー、長いなら考えるもんなのかな………。」


「えへへ、結婚はね………」


茜の言葉にわざと被せて、強く言い返す。



「誤解しないで欲しいんだけど。」


俺の言葉に、周りの男どもの視線が集まり始めた。



「どうした?」

「紺野、もう酔ったのかー!?」


不思議そうな顔でそう聞くヤツらに、俺は真面目な面持ちで反応する。


アルコールは確かに回り始めているけれど、まだ酔いが完全に回りきっている訳じゃない。

自我は、俺の中にちゃんとある。



「俺達、もう別れてるから。………6年も前に別れてるのに、結婚とか考えてるはずないだろ?」


苦笑いで締めたその言葉に、茜の肩がピクンと揺れた。



気まずい空気だけが、俺の周囲に立ち込める。


俺だって、言いたくない。


こんな、場を盛り下げる様なこと。

みんなをしらけさせる様なこと。



久しぶりに、みんなで集まったんだ。


楽しく飲みたい。

語り合いたい。


だけど、嫌だったんだ。

どうしても、許せなかったんだ。


俺は。



本当のことを言わないままでいるのは。

誤解されたままでいるのは。


真実を隠したままでみんなに合わせて笑うことだけは、どうしても嫌だった。