さよならの魔法




私を見て。

私のことだけを見てよ。


私のことを忘れないで。



茜の心の声が、否応なしに入り込む。

知りたくもないのに、こういう感情だけは分かってしまう。


大切なところでは、何1つ分かり合えなかったのに。



気が付けば、茜との距離はなくなっていた。

開いていたはずの距離は、0センチになっていた。


ぴったりと俺に体を寄せる茜が、腕に馴れ馴れしく触れる。



「………。」


ときめくどころか、嫌悪感すら感じる。

ドキドキなんて、もう感じない。


5年前と、何も変わらないんだな。


俺も、茜も。

俺達2人の関係も。



茜はそうやって、自己主張をしているだけだ。


ユウキは、私のもの。

私だけもの。


そう言いたいから、こんなことをする。

みんなの前で、わざとらしく俺にくっ付く。



分かるよ。

分かっているんだ。


そんなところまで、5年前と変わらない。

5年前と同じなんだ。



俺は、誰かの所有物なんかじゃない。

誰かのものなんかじゃない。


少なくとも、今は。



結婚している訳でもない。

付き合っている彼女だって、あの一件以来いなかった。


こんな風に態度で示されても、呆れていくだけ。



「ユウキ、聞いてるー?」


ユウキ。

そう呼ばれれば呼ばれるほど、俺の心は離れていく。


茜の元から離れていく。



「大丈夫だから。」


離れろよ。

お願いだから、離れてくれ。



「ユウキったら、もうー!」


拗ねた素振りを見せて、茜が俺の腕に胸を押し当てる。


色気で、どうにかしようと思っているのか。

そんな作戦、俺には効かないけど。



ずっと、彼女はいない。

キスだって、していない。


ウブな女の子じゃないけれど、するなら好きな女の子としたい。



大好きな女の子と、体を重ねたい。

気持ちを通わせて、それから先に進みたい。


その相手は茜ではないことだけは確かなのだから、茜がどんなに色気を振り撒こうとも、俺に効く訳がないのだ。