さよならの魔法




(天宮………?)


半信半疑のまま、カウンター席へと目を向ける。


そこにいたのは、みんなの言葉通りの女の子。




少し明るめの、ナチュラルブラウンの長い髪。

淡いグレーのコートから覗く、短いデニムのスカート。

ミニスカートから伸びる足には、焦げ茶色のロングブーツ。


あの頃の天宮とは違う。

記憶に残るあの子とは別人の様な、その姿。



当たり前のことだけれど、セーラー服なんて着ていない。

今では懐かしくさえ思える、馴染み深い紺色の制服を着た少女はそこにはいなかった。


視線の先に立っていたのは、雑誌にでも出てきそうな若くて綺麗な女の子。

この町の人間だったとは思えないほど、垢抜けた1人の女の子だ。


スラリと伸びた長い足が、座敷の方へと向かって歩いてくるのが見えた。



近付くほどに、疑ってしまう。

見間違いなのではないかと、勘繰って見てしまう。


あれは、本当に天宮なのかと。

俺と同じクラスだった、あの天宮なのかと。


だって、まるで別人だ。

本当に、別の人みたいだ。



長い睫毛。

元から長かったのではあるのだろうが、それを更に長く見せる為にマスカラを塗っているのが分かる。


ふんわりと染まった、桃色の頬。

派手な色味ではないけれど、艶やかに潤う唇。



どうしても、5年前の天宮と目の前に迫る女の子とが一致しない。

同一人物には思えない。


女の子はメイクで変わるとは言うけれど、あれほど変わるものなのだろうか。

それとも、誰も天宮の素顔に気が付かないままだったということなのか。



奪われる。


視線も、心も。




天宮に気を取られていた俺は、すっかり忘れていた。


隣にいる、元カノの存在を。

6年前は付き合っていた、茜の存在を。


天宮に目を奪われる俺を、茜は大きな声で呼んだ。



「ねえ、ユウキ。」


俺の意識を引き戻そうと、俺の名を呼ぶ茜。




「飲んでるー?あー、ちゃんとおつまみも食べなきゃダメだよ!胃に悪いんだから。」

「茜………。」