さよならの魔法




「ユウキ………。」


成人式で会ったばかりの、俺の元カノ。

茜だった。



「茜、久しぶり。」

「うん、久しぶり。でも、久しぶりっていうのもちょっと違うかな?」

「?」

「ユウキ、成人式に来てたでしょ?私、気付いてたよ。」




お互いの存在に気が付いていたのに、声はかけなかったということらしい。

俺も、茜も。


この分だと、茜と一緒にいた林田も、矢田に気が付いていたのだろう。



成人式の時とは打って変わって、目の前にいる茜の服装は至ってカジュアルなものだった。


肩を出した、淡いピンクのチュニック。

細身のスキニージーンズ。


振袖なんかよりも、こっちの方がずっと茜らしく感じる。

振袖は振袖で美しいのだけれど、動きやすい格好の方が奔放な茜には合う気がするのだ。



ぱっちりとした目を際立たせる、フサフサの長い睫毛。

プルンとした、ゼリーの様な見た目の唇。


成人式で見かけた時よりも、近い距離。

この距離で見ると、茜もあの頃より大人びているのが目に見えて分かる。



茜は、元がいいのだ。

矢田が入学当時から、可愛いと騒いでいたほど。


可愛い中学生だった茜が、大人になって、色っぽくなって俺の隣に座っている。

見えそうで見えない胸元に、ドキッとする男も多いのだろう。



だけど、俺は、何も感じなかった。


俺の胸は、ドキリともしなかった。




好きだったよ。

そう、昔は。


自慢の彼女だった。

こんなに可愛らしい彼女が、自分の隣で笑っていてくれる。


そのことが、誇らしかった。



しかし、今は茜を見ても、ときめくことはない。


6年前のバレンタインデー。

俺はあの冬の日、茜との恋に終止符を打ったのだ。

自らの手で。


それは、自分で決めたこと。



終わってしまった恋が燃え上がることはない。

少なくとも、俺は。


醒めてるのだろうか。

冷たい人間なんだろうか。


俺という男は。