さよならの魔法




(いないな………天宮。)


ふとした瞬間に、店内をぐるりと回遊する視線。


カウンター。

座敷。

トイレの前。




どこを見ても、彼女はいない。

どこを探しても、彼女を見つけられない。


いつまで経っても。

そのことが、俺の心に小さな影を作っていた。



(来ないよな、きっと。)


成人式だって、天宮は来なかったのだ。

成人式の会場で見つけられなかったのに、ここで天宮を見つけられる訳がない。


よくよく考えれば、すぐに分かることだった。



あの頃、天宮を悩ませていた女。

磯崎が、ここに来ることはない。


卒業時に3年1組に在籍していた人にしか、あのハガキは送っていないのだと。

西脇が、さっきそう言っていた。



天宮を悩ませていた種は確実に1つは取り払われているはずだけれど、全てがなくなった訳じゃないんだ。


あのいじめに加わっていた人間は、他にもいる。

全員が消えたのではない。


現に、同じ座敷でケラケラ笑っている。



天宮を泣かせた要因は、まだ存在しているのだ。


だけどーーー………




(それでも来て欲しかった、なんて思うのは………俺のワガママかな。)


俺は、天宮のことを救えなかった。

助けられなかったことを、今でも悔やんでいるから。


心の片隅に残った罪悪感を消したいが為に、俺は天宮に来て欲しいと思っているのだろうか。

彼女に謝れれば、この気持ちは消えていくのだろうか。



自己中心的な考えだと、我ながら思う。

自分勝手な思いなのだと。


罪滅ぼしがしたいだなんて、勝手だ。



でも、ちょっとだけ、顔が見たかったな。

ただ単純に、久しぶりに天宮の顔が見たかった。



セーラー服を着ていない天宮を。

俺と同じ、20歳になった天宮を。



天宮のことを考えていた、その時だった。









トントンと、肩を軽く叩かれる。

その衝撃に驚いて、顔を上げる。


そこにいたのは、数時間前に見たばかりの人。