さよならの魔法




まあ、最初の1杯はビールにしようかな。

始めはみんなに合わせてというところが、何とも日本人らしいけれど。


俺、日本人だし。


旧友と、久しぶりに会えたのだ。

最初の1杯くらいは、みんなに合わせたい。



「んー、じゃあ、ビールで。」

「すいませーん、ビール追加して下さい!!」


すぐに運ばれてきたジョッキ。


ビールのいいとこって、すぐに運ばれてくるところだ。

シェイカーを振る訳じゃないから、パッと持ってきてくれる。



「お疲れー。」

「かんぱーい!!」

「よっしゃー、飲むぞー!」


各々に乾杯の言葉を口にして、アルコールを一気に流し込んでいく。


5年ぶりの再会。

こうして、同窓会は幕を開けた。










時間を追う毎に、アルコールが進んでいく。

体内を巡る血に、アルコールが混ざり合っていくのが自分でも分かる。


同じクラスだったヤツらに会うのは、卒業以来のこと。

5年ぶりだ。



同じ高校に進んだヤツもいないし、卒業してからは会うこともなかった。

町ですれ違っていたかもしれないが、まともに話をするのは5年ぶりになるだろう。


卒業式以来の再会に、会話も弾む。



「ほんとに、久しぶりだよな。何してた?」

「何って、普通に大学生やってるよ!」

「あー、俺も。」

「………っていうかさ、今は大体のヤツは進学するんじゃないの?」

「そっかー、そうだよなー。」



話が尽きないのが、不思議だった。

離れていた時間を埋めていく様に、次々に言葉が生まれていく。


それなりに、苦労もあったことだろう。

悩むこともあっただろう。



だけど、みんな、笑って話してる。

笑顔で酒を飲んで、ここにいる。


そんな小さなことに、俺はちょっとした幸せを感じていた。



しかし、気になることが1つ。

弾んだ会話を交わしていても、どうしても気にかかることがあった。


それは、天宮。

彼女の存在が、ここにないこと。