さよならの魔法




自分さえ楽しければ、それでいい。

他の人間が傷付いても、自分に害が及ばないのならば関係ない。


おそらく、そういう人間だったのだ。



そのことで、天宮が傷付いても。

教室に通えなくなるほど、天宮の心が壊れてしまったとしても。


残酷ないじめに積極的に加わっていた松島のことを、俺はどうしても好きになれなかった。

一緒につるもうとは思えなかった。


それだけのことだ。




矢田みたいに、たまにからかうだけなら、まだ可愛いものだ。


矢田だって、アホだけど本当のバカではない。

俺がたしなめたあの一件以来、矢田が天宮のことをバカにすることはなかった。


矢田も学んだのだ。



ああ見えて、あの男は根は素直で真っ直ぐなヤツだ。


悪意なんてなくて、ただからかいたかっただけなのだろう。

冗談半分くらいの、軽い気持ちだったんだと思う。



しかし、松島に関していえば、矢田とは違うと断言出来る。

それだけは、はっきりと言える。


暗く光る目。

闇の底から見られている様な、ほの暗さを感じる、眼鏡の奥に潜む視線。



狂っていると思った。

どこかがおかしいのではないかと、そう感じずにはいられなかった。


あの磯崎と同じ目をしていたんだ。

松島は。





そんな松島の実家で行われることになった、同窓会。


時間が早いせいだろう。

まだ、人はまばらだった。



奥の座敷に、ポツリポツリと人が座っているのが見えるだけ。

カウンターにも何人かが座っているけれど、まだ満席には程遠い。


グルッと辺りを見渡せば、俺にあのハガキを送ってきた本人が、すぐ傍のカウンター席に座っていた。




「あー、紺野くんだ!久しぶりー。」


クラス委員でもあり、この同窓会の幹事を務めている女の子。


西脇 友実。

この同窓会を企画したその人は、カウンター席に陣取って、既にジョッキを片手に1杯やっている。