さよならの魔法




来ないだろうとは思ったけれど、万が一ということもある。


その時は、戦ってやるつもりだった。

あの頃みたいに一方的に言われず、言い返すことを選んでいたことだろう。


それが、私にとって、過去を乗り越えるということになるのだから。



そして、もう1人。

橋野さんもまた、この場に姿を現すことはなかった。


橋野さんがいない。

それは磯崎さんのこととは違って、私には予想外のこと。



彼女は、ずっと教室に通っていた。

私みたいに、引っ越したという事実もない。


卒業後もこの町に住み続けていたであろう彼女は、この同窓会に顔を出すものだとばかり思っていた。



(橋野さん、か………。)


ビールを口にゆっくりと含みながら、思い起こす。


彼女の姿を。

私が知っている、彼女のことを。



三つ編みに編み込んだ、長くて癖のある髪。

規定通りの、制服の長いスカート。


5年前に見たっきりの彼女の姿が、瞼の裏で私の心を刺激する。



仲直りがしたいと、思ってたんじゃない。

仲直りが不可能なほど、私と彼女の間には深い亀裂が入ってしまっていたのだ。


自分でも、気が付かないうちに。



すれ違った心が、そう簡単に元には戻らないことも、身をもって知っている。


それでも、話をしたかった。

彼女と言葉を交わしたいと、そう思っていた。



会いたくなかった人だけど。

気まずさも、あの頃と同じ分だけあるけれど。


空いてしまった穴は、塞がらない。

立ちはだかる壁は高く厳しいものだと分かっていても、越えた先には何かがあると思うから。


明るい光が、その先に待っていてくれると信じたいから。



私が特に気にかけていた2人に会うことはなかったけれど、そうではない、意外な人からは話しかけられてしまった。

苦手意識を感じている人という点では、同じことなのだけれど。


それはビールを2杯ほど飲み、ほろ酔い気分に浸っている時だった。