好きだから、聞きたくなくても声が耳に入ってしまう。
体は正直に、紺野くんの声を拾ってしまう。
「ユウキったら、もうー!」
拗ねた素振りで、増渕さんが返す。
私は、何も言えなかった。
寄り添う2人の間になんて、割って入るほどの度胸はなかったのだ。
当たり前だ。
私は、ただのクラスメイト。
しかも、過去形のクラスメイトの1人に過ぎない。
邪魔者は、私だ。
増渕さんではない。
「………。」
もう1度、振られた気分だった。
中学2年のバレンタインデー。
6年前の2月14日。
あの日に振られたのに、私はまたここで振られているのだ。
2人の仲を見せ付けられることによって。
叶わない。
届かない。
5年経ったって、紺野くんには可愛い彼女がいる。
地に落ちていく気持ちを誤魔化して、私は席に座った。
なるべく、紺野くんから1番遠い席を選んで。
同じクラスだった女の子達が群れて集まっていた一角に、悪いけどお邪魔させてもらうことにした。
中学時代を思い出す。
戻れない、戻りたくない時間を思い出す。
あの頃と同じく、私と紺野くんの距離は遠いまま。
縮まることはなく、同窓会は始まった。
見回してみれば、気が付いたことがある。
紺野くんの存在にばかり気を取られて、見落としていたことがあったのだ。
それは、この店に入るまでの私が気にしていた、2人の存在。
私のことをずっといじめていたあの磯崎さんは、この場所にはいなかった。
やはり、というべきなのかもしれないけれど。
磯崎さんは、卒業よりもずっと前に転校したと聞いている。
私の様に、卒業してからこの町を出た訳ではないのだ。
磯崎さんまでこの場に呼ばれることはないだろうと予測していたが、その予測はぴったり当たっていた。
ホッと、胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。
