さよならの魔法




肩に付くくらいの長さの髪が、動きに合わせて軽やかに揺れる。



どうして。

どうして。


どうして、紺野くんの隣にいるの?


よく響く明るい声で、女の子は続けた。



「飲んでるー?あー、ちゃんとおつまみも食べなきゃダメだよ!胃に悪いんだから。」

「茜………。」


5年前と同じ光景。


5年前とは違う。

そう分かっているのに、5年前に戻ったみたいだ。



卒業式の日を繰り返している様だった。



私、あの日、見てたんだ。


紺野くんに抱き付いている、増渕さんの姿を。

嬉しそうに紺野くんの隣にいた、増渕さんのことを。



紺野くんの隣にいたのは、あの頃も今も同じ人。

増渕さんで。


ピッタリと寄り添う増渕さんが、甲斐甲斐しく紺野くんの世話をしていた。



目眩に似た感覚に襲われる。

フラフラと、体が揺さぶられる。


強烈なその感覚を、壁に手を付くことで逃す。



(わ、たしは、私は………何をしようとしてたの?)


近付ける訳ないじゃない。

傍に行ける訳ないじゃない。


そんなこと、出来ないよ。



紺野くんの隣には、あの子がいる。

彼女がいるんだ。


5年前と変わらず、増渕さんがいる。



どうして、なんて思っちゃいけなかった。

当然のことなんだから。


あの頃と、何も変わらない。

変えられないの。



私の気持ちも、紺野くんの気持ちも同じなんだよ。

決して、交わることはない。


私は、紺野くんのことが大好きで。

でも、紺野くんは、増渕さんのことが好きで。


同じなんだよ。

変わらないんだ。



「大丈夫だから。」


増渕さんを安心させる様に、紺野くんがそっと呟く。

あの頃と変わらない、よく通る声で。


聞きたくない。

聞きたくないよ。


それなのに、耳に入る声。



聞きたくないのに耳に入ってしまうのは、好きだから。

今でも、彼のことが好きだからだ。


私は、あの頃のまま。

好きという気持ちさえ、中学時代に囚われたままなんだ。