さよならの魔法




紺野くんでないのなら、私の体がこんなに正直に反応を示すはずがない。


心ではつまらない意地を張っていても、体だけはどうしようもないほど正直なのだ。

好きな人の前では、無力だ。



だって、ほら、こんなにドキドキしてる。


ここ何年も、こんな風にときめいたことなんてなかった。

紺野くん以外の誰にも、心を揺り動かされたことなんてなかったのに。



(………ずっと、ずっと会いたかったよ。)


独りよがりの想いでも。

一方通行の気持ちでしかなくても。


それでも、ずっと会いたかった。

紺野くんに会いたかったんだよ。



大好きだった。

好きだったの。


忘れようとしても、無理だった。

忘れたフリをしても、無駄だった。



忘れられなかったよ。

この5年間、忘れたことなんてなかった。


いつも、心のどこかに彼がいた。

学ランを着た彼が、片隅で息をしていた。


何度さよならと唱えても、この気持ちがなくなることはなかった。



他の男の人と付き合ったこともある。

紺野くんじゃない人と、一線を越えようとしたことだってあるのだ。


叶わない初恋なんて忘れて、別の人と。

そう考えるのは、普通のことだろう。




結局は、それさえも果たせないまま。

体なんて繋げることは元より、キスさえも気持ち悪くてしたいと思えない。


紺野くんじゃない人と付き合っても、目を閉じれば、そこには彼がいたのだ。

制服姿の彼が笑っていたんだ。



時間は、解決してくれなかった。

この想いを、気持ちを過去へは変えてくれなかった。


魔法は私を明るく変えてくれても、気持ちまでは消してくれない。

この想いまで、変えてはくれない。



部屋の端に座る紺野くんの元へ、無意識に近付こうとしていた時だった。





「ねえ、ユウキ。」


(え………?)


真っ先に見つけた紺野くんの隣には、1人の女の子。


健康的な肌が、肩を出す形で着ているチュニックから見え隠れする。

露出があるのに変に艶めかしく見えないのは、そのナチュラルな肌色のせいだろうか。