さよならの魔法




私の中の時間は、悪い意味であの頃のままで止まってしまっている。

私の中の3年1組のみんなは、中学時代のままなのだ。


私が20歳になった様に、みんなも同じく20歳になった。

大人になったんだ。



私と同じ様にお酒も飲めれば、煙草だって吸える。

自己責任なのだから、他の人に咎められることもない。


分かっていても、不思議な感覚。

制服を着ていなくても、顔立ちが大人びていても、中学生がお酒を飲んだりしている様に見えてしまうのだ。



いつもとは違う、非日常の空間。


私は、その中で見つけてしまった。

誰よりも、早く。






「…………!」


ブーツを脱ごうと動かしていた手が、ふいに止まる。

無意識に、体が固まる。


固まったのは、体だけではない。

視線もまた、釘付けになって固まっていく。



紺野くん。

紺野くんだ。


紺野くんがいる。



ドクン。

ドクン、ドクン。


緊張で怯える様に小さくなっていた心臓が、今度は怪獣みたいに体内で暴れ始めた。



来るんじゃないかなって、思ってた。

紺野くんがここにいることは、当たり前のこと。


だって、私は同じクラスだった。

入学してから卒業するまで、彼と同じクラスだったのだから。


話をすることはなくても。

目が合うことがなくても。


私はずっと、彼と同じクラスだったのだから。



目と目が合うことはない。

視線が合うことはない。


それでも、同じ空間にいる。

そこに、すぐそこに彼がいる。



フワフワッとした、猫っ毛の髪。

柔らかそうな髪は、ダークブラウン。


あの頃よりもほんの少し大きくなった背中を覆う、青いチェックのシャツ。



振り向いてくれない。

こっちを見てはくれない。


でも、分かる。

学ランなんか着ていなくても、誰なのかが分かるよ。



あれは、紺野くん。

絶対に、紺野くんだ。