さよならの魔法




ああ、私、こんな風に話しかけて欲しかった。

あの頃、こんな風に言葉をかけて欲しかったんだ。


からかわれても、いじめられても、誰もが見て見ぬフリをして通り過ぎていく。



助けて。

誰か、助けて。


誰でもいいから、お願い。



心が壊れてしまう前に、こんな風に優しく言葉をかけて欲しかった。

話を聞いてもらいたかったんだ。


私は。


自力では動けなくて。

歯向かうことすら、出来ない。


なんて、他人任せな願いなんだろう。



あの頃の私に、もう少し勇気があったなら。

1歩、先へ踏み出す勇気があったのなら。


あとちょっとだけ頑張れていたなら、未来は違っていたのだろうか。

こんな風に、誰かに温かい言葉をかけてもらえたのだろうか。




もしも。

もしかしたら。


そんな言葉を今更言ったって、意味がないことなんて分かってる。

昔の自分を振り返ったって、どうにもならないことも理解してる。


それでも、考えずにはいられない。



「さ、入って!カウンターは埋まってるけど、座敷の奥の方ならまだ空いてるはずだから。」


西脇さんが、私を笑顔で促す。


周りにも気を配れる人だから、クラス委員なんて大役を任されたのかもしれない。

面倒見がいい人なのだ、きっと。


西脇さんという人は。



「ありがとう、西脇さん………。」

「いいの、いいの。気にしないで!」


短くお礼を言ってから、私は座敷の方に向かった。










狭いと思っていた店内だけれど、入ってみれば思っていたよりもずっと広く感じられた。


20畳ほどの広さの和室。

そこに並べられた、いくつかの木製のテーブル。


テーブルの周りには懐かしい面々が座り、ジョッキを手に談笑している。



煙草の煙が充満する空間。

アルコールの臭い。


こんな空間に、このメンバーが集まっていることがどうしても不思議に思えた。